2011年9月1日木曜日

環境中の放射性セシウム

環境中の放射性セシウム [編集]

セシウム137のγスペクトル:660 keV γ- と 30 keV Ba Kα線
ネバダ核実験場でのアメリカの核実験後での堆積物のうち、最もセシウム137が含まれていた10回の爆発。SimonHarryという爆発実験は1953年のアップショット・ノットホール作戦のもので、GeorgeHowは1952年のタンブラー・スナッパー作戦のものである。
現在環境中に存在しているセシウム137などの多くは、1940年代〜1960年代の核実験核事故で放出された。ただしセシウム134は、半減期の関係で数十年前に放出されたものは殆ど残っていない。1960年代前半に日本人は1日に1 Bq以上を摂取していたと推定されている。チェルノブイリ原子力発電所事故も例外ではなく、2005年現在、セシウム137はチェルノブイリ原子力発電所周辺の放射線汚染地域での、主な放射線源である。原子炉がメルトダウンしたとき、セシウム134、ヨウ素131ストロンチウム90プルトニウムとともに、セシウム137は健康への影響が最も大きい同位体の1つである。
チェルノブイリ事故以後のドイツ全土について平均してみると、セシウム137による汚染は、平均で2000-4000 Bq/m2となっている。これは1 mg/km2に相当し、500 gのセシウム137がドイツ全土にばらまかれたことになる。
セシウム137は人為的に生成された核種である。極めて低い確率で起こる天然ウランの自発核分裂で痕跡量が生成する程度である。他の大半の放射性同位体は安定同位体から生成され得るのに対し,セシウム137はウランから生成される。そのため核実験が 始まる以前には自然環境中に殆ど存在していなかった。この同位体から放出される特性γ線を観測することにより、密封容器の内容物が核実験の幕開け以前に製 造されたものかどうか判別することができる。この手順は、高級ワインが偽物であるかどうかの鑑定のため、特に「ジェファーソン・ボトル」事件などで用いら れた。
ウラン235の熱中性子核分裂において直接生成する場合の核分裂収率は、 セシウム137は0.06 %に過ぎないが、ヨウ素137(半減期24.5秒)は2.6 %、キセノン137(半減期3.82分)は3.2 %生成し、そ の他テルル137(半減期2.5分、0.39 %)なども含めて、これら短寿命核種がベータ崩壊してセシウム137となるため、累積の核分裂収率は 6.2 %となる[4]

海洋中の分布 [編集]

海洋中では水深約200 m付近にある水温躍層(温度変化の急激な変化点)より浅い海域に多く存在し、濃度は比較的均一である。つまり、水温躍層が一種のバリヤ的機能を果たしている。生物濃縮により魚食性の高い魚種での高い濃縮度を示すデータが得られている[5]

放射性セシウムの危険性 [編集]

アクチノイドと、その核分裂生成物
崩壊系列 半減期(年) 核分裂収率
4n 4n+1 4n+2 4n+3 >7% >5% >1% >0.1%
244Cm 241Pu 250Cf 243Cm 10~30 137Cs 90Sr 85Kr
232U
238Pu
60~90

151Sm

249Cf 242Am
100~400

241Am
251Cf 400~900
240Pu 229Th 246Cm 243Am 5~7千

245Cm 250Cm 239Pu 8千~3万

233U 230Th 231Pa 3万~16万


234U
20~30万 99Tc
126Sn 79Se
248Cm
242Pu
30~40万 この7核種が長寿命核分裂生成物

237Np

1~2百万 93Zr 135Cs

236U

247Cm 6百万~3千万
107Pd 129I
244Pu


8千万
232Th
238U 235U 7~140億
太字の核種は核分裂性
太字の核種は中性子毒
セシウム137に限らず、セシウムの化合物は多くが水溶性であり、生体内での振る舞いはカリウムルビジウムに似ている。体内に入るとセシウムは体中に分配され、ベータ線による内部被ばくを起こす。濃度は骨組織で低く、筋組織で高い。生体内での半減期は70日以下であるという報告もあるが[6]、100-200日と言われることが一般的である。犬を使った実験では、3800 µCi/kg(ベクレルに換算すると 1.4×108 Bq/kg、約44 µg/kgのセシウム137、人間の実効線量で換算すれば1.82 Sv/kg)を服用したものは3週間以内に死亡した[7]
事故でセシウム137を摂取してしまった場合、プルシアンブルーで治療される。これはセシウムやカリウムに結合し、体外への排出を促進する[8]

生体に対する影響 [編集]

経口で10000 Bqを摂取した時の実効線量は0.13 mSvとされ、1 mの距離に1.00 MBqの線源があった場合、ガンマ線によって1日に1.9 µSvの外部被曝を受ける[9]
世界保健機関 (WHO) の飲料水中の放射性核種のガイダンスレベルは、平常時の値は10 Bq/Lで原子力危機時の誘導介入レベル(介入レベルを超えないように環境汚染物質や汚染食品の摂取、流通を制限するため、二次的に設定される制限レベル、「暫定規制値」とも言う)であり、国際原子力機関は介入レベル(敷地外の一般公衆が過度の被ばくを生ずる恐れのある場合は、実行可能な限り被ばく低減のための対策をとることが必要となるため、その判断の基礎となる線量)を3,000 Bq/Lとしているが平常時の値や誘導介入レベルは定めていない[10]。日本では一定の基準は無く WHO の基準相当[11]を守っていた。しかし2011年東北地方太平洋沖地震における福島第一原子力発電所事故の影響から、放射性セシウムの飲料水中及び牛乳・乳製品中の暫定規制値を WHO 基準の20倍以上に相当する200 Bq/kgと定めた[12][13]

生物濃縮 [編集]

詳細は「セシウム#生物濃縮」を参照

事故例 [編集]

一般に、放射性物質を不適切に管理すると、外部へ持ち出される恐れがある。その際に一般市民が被曝した事故としてゴイアニア被曝事故がある。
また、原料に混入すると、放射性物質を含む製品を生産することになる。アセリノックス事故英語では、スペインのアセリノックスというリサイクル会社が、γ線発生器のセシウム137を溶融してしまった[14][15]。 2009年には、中国陝西省のセメント会社が、古い使われていないセメント工場を取り壊し、放射性物質取り扱いの基準に則らなかった。それにより測定機器 に使われていたセシウム137が、トラック8台分の金属片とともに製鉄所に送られた。そうして、放射性セシウムが鋼鉄に混入することになった[16]

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